仲井文明粉粒体レオロジー English

棒状粒子拡散 · マルコフ過程

障害物が増えると長い棒が速く拡散する

この研究の要点

十分に細長い棒では,管状領域に閉じ込められるような運動拘束がないマルコフモデルでも,固定障害物が密になると並進拡散係数が増加します.障害物は長い粒子を常に遅くするとは限らず,回転を抑えることで重心を遠くまで動かす場合があります.

固定点障害物の間を運動する棒状粒子
固定障害物中を運動する棒状粒子.

背景と問い

通常,障害物が密になるほど粒子の拡散は遅くなりますが,長い棒状粒子では中間的な密度域で逆に速くなる場合があります.従来は,周囲の障害物がつくる実効的な管の中で,棒が長軸方向へ動き続けるためだと説明されてきました.そこで,過去の衝突履歴に依存するこのような拘束が本当に必要か,より単純な衝突運動だけで十分かを問いました.

どのように調べたか

空間に固定した点障害物の間を,一本のspherocylinder(両端を半球で閉じたカプセル形の剛体粒子)が弾道運動するモデルを用いました.kinetic Monte Carlo法で互いに独立な衝突を発生させ,過去の衝突に依存しないマルコフ過程としました.棒の長さと障害物密度を変え,衝突頻度と角速度から並進拡散を説明するスケーリングも調べました.

主な結果

十分に長い棒では,障害物密度の増加に伴って並進拡散係数がいったん減少し,その後増加へ転じ,さらに高密度で再び減少しました.連続する衝突に相関がなくても,アスペクト比がおよそ24を超えると増加が現れます.障害物が回転を抑えることで長軸方向の運動が長く続き,棒の太さによる妨害が支配的になる前に重心がより遠くまで移動します.

この研究の意味

棒状粒子の拡散増加を説明するために,実効的な管による運動拘束は必須でないことを示しました.粒子の形状,回転,衝突頻度だけからなる単純な機構を切り分けたことで,混雑した環境での輸送を,一粒子の効果と集団運動・記憶の効果に分けて考えやすくなります.

キーワード

棒状粒子拡散,異方性粒子,マルコフ過程,kinetic Monte Carlo法,障害物密度.

論文情報

Fumiaki Nakai, Martin Kröger, Takato Ishida, Takashi Uneyama, Yuya Doi, Yuichi Masubuchi, “Increase in rod diffusivity emerges even in Markovian nature,” Physical Review E 107, 044604 (2023).