研究対象: 粉体レオロジー

粉体を,粒径数十マイクロメートル以上の粒子集合体と定義します. この定義では,地面,化粧品,食品,建築材料,お薬,パチンコ球も全て粉体です. 仲井はこれら粉体のレオロジー理解のために研究しています. ここでのレオロジーは考えうる限り広義の意味です. 狭義にはレオロジーは物質の変形応答関係を理解する学問ですが, ここでは物質の何かが動けばレオロジーの範囲と捉えます. 様々な粉体のレオロジー特性(硬さ/柔らかさ,流れやすさ,壊れやすさ,混ざりやすさ,動きやすさ)の 物理機構解明を目指しています.

なぜ数十マイクロメートル以上とするのか?: 人間の観察時間スケールでは,数マイクロメートル以下の粒子/分子は熱運動し, 物質は平衡状態(物理的に考えやすい状態)に落ち着きます. しかし粒径が数十マイクロメートルを超えると,熱運動が小さすぎて観測困難になります. この状況では平衡状態が実現されず,経験則を除けば物理的に未解明です. つまり粒径数十マイクロメートル程度を境に,人間から見た物質の動き方/難しさがガラッと変わります.

粉体はエネルギー散逸,クーロン摩擦,濡れ性で複雑な挙動がわらわらと生じます. 粉体自体がそもそも難しい上に動きも複雑になると,物理機構の理解が困難です. そこで私は比較的単純(そう)に動いている粉体(せん断や加振程度)に限定して研究することが多いです. 仲井の研究は素朴で基礎的な部分に軸足を置きますが, これがより複雑な粉体現象理解に役立つと信じています. 工学応用や地球科学への展開にも関心があり, 派生としてコンクリートに関する研究や地滑りに関する研究も実施中です.

研究手法はできるたけ縛らない方針で,対象や目的,資金面/研究環境に応じて適切(そう)な方法を選択/勉強します. 理論的には(広義の)統計力学が好みで,(広義の)連続体力学も扱います. 数値計算は主に離散要素法を用い,場合に応じて他の粒子シミュレーションも活用します. 実験に関しては,現在大阪大学桂木研究室で実験装置製作を通じて技術習得中です.

粉体の壊れやすさ

研究例:構造化粉体

粉体は構造に応じて強度が大きく変わります. アーチ,城壁,石畳などは粉体を巧みに配置し強固な物性を実現しています. 構造と強度の関係は工学的に重要ですが,物理的知見は意外に乏しいです. 粉体の周期配列による強度増加は知られていましたが, 仲井は転位という格子欠陥を導入した系で強度が劇的に低下することを発見しました.
F. Nakai, T. Uneyama, Y. Sasaki, K. Yoshii, and H. Katsuragi, arXiv:2410.20308 (2024).

粉体の混ざりやすさ

研究例:粒度偏析

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粉体系は,大きさ,質量,形状等にバラ付きがあると, 流動下で類似粒子が凝集する現象がしばしば生じます. 特に,粒子のサイズ違いにより生じる粒度偏析は,工学上問題になります. 仲井は,平たい領域に大小粒子を閉じ込めて振動すると, 小粒子が少ない場合は偏析し,小粒子が多いと偏析が解消する現象を発見しました. 偏析現象の物理機構解明を目指し研究を続けています.
F. Nakai and K. Yoshii, Granular Matter 27, 1 (2025).

研究例:粉体の硬さ/柔らかさ

線形粘弾性の研究.準備中

研究例:粉体の流れやすさ

加振粉体の研究,準備中

博士課程時代:粒子拡散の研究

表向きな説明:粒径数マイクロメートル以下の粒子はランダムに動きます(ブラウン運動). マクロな系の流れやすさは,ミクロに見れば全て粒子の動きやすさによって決まっています. 粒子の動きやすさは,粒子の性質と周囲環境双方に依存します. 仲井は,粒子の質量,形状,環境が粒子の動きやすさにどう影響するのかをシンプルな系を考えて研究していました.

本音:統計力学を使って粉体の流動性を理解することを目指して,まずは簡単な平衡系からと思い研究を開始しました. しかし,研究過程で意図せず数々の(面白い?)脇道に逸れ,計画とは異なる方向性で博論研究が進みました.

棒状粒子の拡散

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粒子の運動性は粒子形状に強く依存します. 過去の理論研究で,非常に細長い粒子集合体は,濃度が濃くなる程運動性が増すという, ちょっと直感とはズレた挙動が生じることが知られていました. 現象の正確な理解は乏しい状況でしたが,仲井は,力学的に妥当かつシンプルなモデルを構築することで, 濃度増加に伴う運動性増加の機構を解明しました.

揺らぐ拡散係数

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粒子の運動性は拡散係数と呼ばれる物理量で特徴付けられます. 拡散方程式の拡散係数です.多くの場合拡散係数は定数としますが, 高分子のような内部自由度がある系や,ガラスのような時空間的に不均一な系では拡散係数が時間的に揺らぐことが報告されています. そのような状況の中,仲井は内部自由度も時空間不均一性もない古典的な気体系でも拡散性の揺らぎが発現することを発見し, メカニズムと共に報告しました.

セメント中の分子拡散

コンクリートはミクロに見るとかなり不均一な材料です. 一般に統計力学分野では,不均一系の拡散係数は時間と共に揺らぐことが知られています. コンクリート中の分子の拡散性も時間と共に変動すると考えなければいけないはずですが, これまで拡散性を一定と近似した解析しか実施されていない状況でした. この近似により,コンクリートの劣化寿命見積もりの精度が悪くなってしまう可能性があります. この状況に対し,名古屋大学の石田崇人 先生と共に, 揺らぐ拡散性を導入したコンクリート中の分子拡散のモデリングを行い報告しました.

理想気体中のトレーサーの拡散

一般に,粒子が複雑な拡散性を示す場合には,粒子を取り囲む流体の構造も複雑です. 仲井は,理想気体という最も構造が単純な流体中に粒子を導入して運動を計算したところ, ある状況下で粒子は拡散方程式では記述できない拡散(異常拡散かつ非ガウス拡散)を示すことを発見して報告しました.

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